かわいいペット


 ただいま、と玄関に座っていたそいつに声をかける。
「……おかえり」
 そいつは無愛想に言った。
 わざわざ玄関まで迎えに来たくせに。
 その様子に苦笑すると、
「なに? にやにやして。気持ち悪い」
……本当にかわいくないやつ。
 そいつを無視しリビングへと向かった。
 律儀に後ろをついてくる。
 さすがは犬だ。
 ふと、遊び心が頭をもたげた。
 そう、遊び心だ。こんなものは。
 唐突に振り返り、すばやく犬の足を引っ掛ける。
 強めに払ったから、腹を打つ。絵に描いたような転び方をした。
 もっとも、腕があんな状態なら、手をつくことは不可能だっただろうが。
 びたん、と、いかにも痛そうな音を立てた。
 どうやら顔面から転んだらしい。
 鼻を押さえて、犬はよろよろと立ち上がる。
「痛い……」
 顔が赤くなっているのは、ぶつけたからだけじゃないだろう。
「いつもよりは痛くないよね?」
 かがんで視線を合わせながら、にっこり笑ってやる。
「そうだけど……そうじゃなくて、俺は」
 その後の言葉はあえて聞かない。
 くるりと背を向けてリビングへ行く。
 こいつは今どんな表情をしているだろう。
 無視されるのもうれしいか?
 聞かれなくて悲しいか?

 かわいいくて生意気なペット。